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研究開発項目:③(b) ナノ材料の体内動態と生体反応に関する数理モデルの構築

実施機関:産業技術総合研究所 安全科学研究部門

最終目標:プロジェクトで実施した吸入暴露試験や気管内投与試験の結果を数理モデルによって記述するとともに、ナノ材料の体内動態と生体反応との関係を表す一般的な生理学的数理モデルとして構築します。

主な成果:
(1)気管内投与後のナノ材料の肺クリアランスと他臓器への移行

呼吸器経路でナノ材料に暴露することによって生じる有害性を理解するためには、ナノ材料の体内動態、すなわち、肺での滞留や他臓器への移行に関する情報が重要です。そのため、ナノ材料をラットに気管内投与し、肺、気管支肺胞洗浄液(BALF)、肺関連リンパ節、その他主要臓器のサンプルを経時的に採取して、ICP-MS等の分析装置で各臓器中のナノ材料を定量するとともに、その結果を数理モデルによって解析します。

これまで、ナノ材料による体内動態の違いを明らかにするために、複数の二酸化チタンナノ材料、酸化ニッケルナノ材料、二酸化ケイ素ナノ材料を用いた気管内投与試験(研究開発項目①)について評価を行ってきました。

図③(b)-1は、異なる物理化学的特性を有する7種の二酸化チタンナノ材料をラットに気管内投与した後の肺からのクリアランス速度を比較したものです。水酸化アルミニウムで表面処理した材料(図中のTTO-S-3コート有り)でクリアランス速度が遅かったことを除けば、サイズや形状の違いは、肺からのクリアランスにそれほど影響を与えませんでした。また、材料によらず、用量が大きくなれば肺からのクリアランス速度が遅くなるという傾向が観察されました(Shinohara et al. in print)。

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図③(b)-1 異なる物理化学的特性を有する二酸化チタンナノ材料の肺クリアランス速度
(*P25のみ用量は0.75、1.5、6.0 mg/kg体重)

 

(2)静脈注射試験での主要臓器への分配

一般に、呼吸器経路で暴露したナノ材料のうち肺から他臓器へ移行する割合は多くないので、その移行量を定量的に把握するのは容易ではありません。

そこで、暴露したナノ材料が体内に入り血流に乗った後の状況を検討するため、静脈注射試験を実施して、主要臓器への分配や、それら臓器での濃度の減衰を評価しました。これまで、複数の二酸化チタンナノ材料と酸化ニッケルナノ材料について試験を行いました。

図③(b)-2は、二酸化チタンナノ材料を1 mg/kg体重の用量で尾静脈に単回投与したラットでの試験結果を表しています。投与後1か月まで観察しましたものです。投与後にナノ材料が主に分配される臓器は、肝臓と脾臓でした。また、それらの臓器での濃度の減衰は遅いことが分かりました(Shinohara et al. 2014b)。

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図③(b)-2 二酸化チタンナノ材料の静脈注射試験の結果:主要臓器への分配と濃度の減衰

 

(3)気管内投与後のナノ材料の肺での局在

研究開発項目②では、吸入暴露試験と気管内投与試験の比較が行われています。気管内投与試験に対して指摘されていることの一つは、ナノ材料の肺内での分布の様子が、吸入暴露した場合と異なるのではないかということです。

暴露したラットの肺におけるナノ材料の分布の様子を定量的に確認するため、肺組織切片を蛍光エックス線顕微鏡で観察するという方法を用いています(Zhang et al. 2015)。

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図③(b)-3 二酸化チタンナノ材料を気管内投与した肺(右肺副葉)のチタン分布
(3.3 mg/kg × 3回投与(合計10 mg/kg))

 

図③(b)-3は、二酸化チタンナノ材料を10 mg/kg体重の用量で気管内投与したラットの右肺副葉の組織切片を100 µm meshの解像度で観察したものです。チタン濃度が高い領域と、バックグランドと同程度の領域とがあることが分かります。

この技術を用いて、気管内投与と吸入暴露の比較、単回の気管内投与と複数回の気管内投与との比較を行っています。また、免疫染色した組織切片を用いて、肺でのナノ材料の局在とマクロファージの集簇との関係も調べています。

 

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