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研究開発項目:③(a-1) ナノ材料の体内分布及び生体反応分布の定量化技術の開発

実施機関:産業技術総合研究所 分析計測標準研究部門

最終目標:気管内投与試験及び吸入暴露試験を行った試験動物を対象として、肺組織の切片に対するナノメートルオーダーの高解像度による細胞の観察とミリメートルオーダーの肺組織の広視野の観察を組み合わせ、肺組織内におけるナノ材料の体内分布と生体反応の分布を定量化する方法を確立します。開発した方法は技術解説書としてまとめて公開します。

主な成果:
生物組織は解剖による生命活動の停止とともに蛋白や脂質の流失等によって微細構造が変化してしまいます。ナノメートルオーダーの観察が可能な透過型電子顕微鏡観察では組織の微細構造を維持した観察試料を作製することが必要です。一方で、広範囲の光学顕微鏡観察のためには袋状の柔らかい臓器である肺全体を薄切化する必要があります。さらに、生体反応分布の可視化のためには、免疫染色を利用するため抗原抗体反応を失活させない観察試料の作製方法が必要です。以上の要求を満たす観察試料調製プロトコルを開発し、光学顕微鏡と蛍光X線顕微鏡を用いたミリメートルオーダーの広視野でのナノ材料の体内分布状態を観察する技術、透過型電子顕微鏡を用いて細胞中に取り込まれたナノ材料についてナノメートルオーダーの高解像度の分析観察技術を開発しました。さらに、ナノ材料の取り込みによる生体反応分布の定量化に関して、レーザー共焦点顕微鏡を用いたミリメートルオーダーの広視野での免疫組織学的解析技術、また、透過型電子顕微鏡を用いたナノメートルオーダーでの免疫組織学的解析技術を開発しました。

(1)ナノ材料の体内分布の定量化

二酸化チタンナノ粒子分散液をラットに気管内投与し、3日後の肺組織の光学顕微鏡観察像を図③(a-1)-1(a)に、10μmに収束したX線を照射して発生したチタンの蛍光X線強度をマッピングして図③(a-1)-1(b)に示します。二酸化チタンナノ粒子が気道に留まるのではなく周辺の肺胞まで侵入すること、二酸化チタンナノ粒子が肺中に局部的に多く取り込まれていることが分かります。また透過型電子顕微鏡によるナノメートルの分解能で細胞組織内でのナノ材料の局在観察や定量元素マッピングが可能となりました。

図③(a-1)-2(a)に酸化ニッケルナノ粒子分散液を気管内投与したラットの肺胞マクロファージの透過型電子顕微鏡像を示します。細胞の微細構造は明瞭に保持されており、黒色粒子がファゴゾーム中に存在していることが分かります。電子線エネルギー損失分光法によるニッケルのマッピング像を図③(a-1)-2(b)に示します。黒色粒子とニッケルのマッピング像は良く一致することから、肺胞マクロファージに取り込まれた黒色粒子は酸化ニッケルであると判定されます。

 

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図③(a-1)-1 二酸化チタンナノ粒子分散液をラットに気管内投与
(a) 3日後の肺組織の光学顕微鏡観察像
(b) チタンの蛍光X線強度をマッピング

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図③(a-1)-2 酸化ニッケルナノ粒子分散液をラットに気管内投与
(a) 肺胞マクロファージの透過型電子顕微鏡像
(b) 電子線エネルギー損失分光法によるニッケルのマッピング像

 

(2)ナノ材料の生体反応分布の定量化

ナノ材料の生体反応分布に関しては、レーザー共焦点顕微鏡によるサブミリメートルの分解能と透過型電子顕微鏡によるナノメートルの分解能での免疫組織学的解析手法を確立しました。ナノ材料の生体反応として、炎症性M1マクロファージの表面レセプターの一つであるToll様受容体4(TLR4)の産生とナノ粒子投与量との相関性に関する先行研究から、TLR4産生に注目しました。

酸化ニッケルナノ粒子を吸入暴露し1か月後のラット左肺の位相差観察像及び蛍光観察像を図③(a-1)-3(a)及び図③(a-1)-(b)にそれぞれ示します。図③(a-1)-3(a)中の肺胞マクロファージと図③(a-1)-(b)中の蛍光発光箇所が一致することから、肺胞マクロファージがTLR4を産生してFITC標識によって蛍光発光していることが分かります。

図③(a-1)-4(a)に酸化ニッケルナノ粒子を吸入暴露し1か月後のラット左肺の肺胞マクロファージTEM像を示します。黒色の凝集粒子近傍の拡大像を図③(a-1)-4(b)に、肺胞マクロファージの端部の拡大像を図③(a-1)-4(c)に示します。図③(a-1)-4(b)中に矢印で示すようにマクロファージによる黒色の酸化ニッケルナノ粒子の貪食が観察されます。図③(a-1)-4(c)中矢印で示すようにマクロファージ端部には2次抗体の金コロイド標識が観察され、TLR4の産生を示しています。この金標識粒子を数的にカウントすることによって、TLR4の産生量を相対的に評価することができます。

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図③(a-1)-3 酸化ニッケルナノ粒子を吸入暴露し1か月後のラット左肺
(a) 位相差観察像、(b) 蛍光観察像

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図③(a-1)-4 酸化ニッケルナノ粒子を吸入暴露し1か月後のラット左肺
(a) 肺胞マクロファージTEM像、(b) 黒色の凝集粒子近傍の拡大像、(c) 肺胞マクロファージの端部の拡大像

 

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