研究開発項目:②(a) 吸入暴露試験と気管内投与試験の比較検討

実施機関:学校法人産業医科大学 産業生態科学研究所

最終目標:吸入暴露試験の結果と気管内投与試験の結果との比較を通じて、初期有害性情報取得の目的で気管内投与試験を用いるに当たってのデータ解釈上の留意点等についての技術解説書をとりまとめて公開します。

主な成果:
吸入暴露試験の結果と気管内投与試験の結果を比較するために、肺毒性の高いナノ粒子と低いナノ粒子を用いて吸入暴露試験と気管内投与試験を行い、肺の炎症をエンドポイントとして両試験の反応性を検討しました。肺毒性の高いナノ粒子として酸化ニッケルナノ粒子、肺毒性の低いナノ粒子として、二酸化チタンナノ粒子を用いました。吸入暴露試験に関しては、最大濃度2 mg/m3程度として4週間の吸入暴露を行い、暴露終了後3日、1か月、3か月後に解剖し、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid、BALF)の細胞解析、サイトカインの濃度の測定、病理学的検討を行いました。気管内投与試験においては、ラットに低用量として0.2 mg、高用量として1 mgを気管内に注入(陰性対照には蒸留水を注入)し、3日、1週間、1か月、3か月、6か月後に解剖し、吸入暴露試験と同じエンドポイントを用いて評価を行いました。

吸入暴露試験の結果では、酸化ニッケルナノ粒子においては、肺内に好中球の浸潤、好中球のケモカインであるcytokine-induced neutrophil chemoattractant (CINC)-1、CINC-2及び酸化的ストレスのマーカーであるheme oxygenase (HO)-1の上昇を認めましたが、二酸化チタンナノ粒子においては、肺の炎症及びCINC-1、CINC-2などのケモカイン、HO-1の増加を認めませんでした。気管内投与試験においては、酸化ニッケルナノ粒子では、好中球の浸潤、CINC-1、CINC-2、HO-1が持続的に増加することを認め、一方、二酸化チタンナノ粒子においては、これらのエンドポイントが上昇しないか、急性期における一過性の上昇のみでした。まとめると、吸入暴露試験では、肺毒性の高い粒子は炎症を認め、肺毒性の低い粒子は炎症を認めず、ラットへの気管内投与試験では、肺毒性の高い粒子は持続的肺炎症、低い粒子は一過性の肺炎症を認めるのみでした。

以上のことから、吸入暴露試験と気管内投与試験は、炎症の程度は違いますが、肺毒性の異なる粒子のランク付けにおいて同様の結果を示しました。以上のことから、気管内投与試験は、工業ナノ材料の有害性評価のスクリーニングとして有用であることが示唆されました(表②(a)-1)。

二酸化チタンナノ粒子の慢性影響を評価するために、二酸化チタンナノ粒子をラットに気管内投与し、寿命である2年まで最大観察期間として肺内の病態を検討しました。本試験で使用した二酸化チタンナノ粒子は、P90であり、結晶構造は、ルチルとアナターゼでした。ラットに低用量として0.2 mg、高用量として1 mgを気管内に注入し、陰性対照としては、蒸留水を気管内に注入しました。気管内注入後、3日、1週間、1か月、3か月、6か月、12か月、24か月後に解剖しました。エンドポイントとしては、急性期である注入後3日から6か月までは、炎症を中心としたエンドポイント、慢性期である12か月から24か月は、線維化の程度及び腫瘍の発生率としました。急性期に関しては、気管内注入後3日に1 mg注入群でBALF中の総細胞数及び好中球数、マクロファージ数の一時的な上昇を認めましたが、時間経過とともに陰性対照群レベルと同じレベルになりました。一方で、0.2 mg注入群では、陰性対照群と比較して差異は認められませんでした。BALF中のサイトカインの濃度も同様の傾向を示しました。肺の病理学的所見として、気管内注入後3日から1週ではマクロファージの一過性の浸潤が認められましたが、その後陰性対照レベルまで低下しました。慢性期に関しては、12か月、24か月のみならず、全ての観察期間を通して、線維化及び腫瘍は認められませんでした。以上から、ラットへの二酸化チタンナノ粒子の気管内投与試験において、一過性の炎症とそれに伴うサイトカインの変化は認められましたが、持続性の炎症、線維化・腫瘍は観察されませんでした。以上のことから、本試験で使用した二酸化チタンナノ粒子は、肺への影響が低いことが示唆されました(表②(a)-2)。

酸化セリウムナノ粒子の生体影響を検討するために、吸入暴露試験と気管内投与試験を行い、肺炎症をエンドポイントして評価を行いました。吸入暴露試験に関しては、F344ラットに低濃度(2.1 mg/m3)又は高濃度(10.2 mg/m3)の暴露濃度で4週間(6時間/日、5日/週)の吸入暴露を行いました。1次粒子径は、8 nm程度でした。暴露終了後、3日、1か月、3か月後に解剖し、BALFの細胞解析など炎症をエンドポイントとした解析を行いました。一方、気管内投与試験に関しては、吸入暴露試験で使用した同一の酸化セリウム懸濁液を用いてラットに0.2 mg、1 mg/rat の用量で気管内注入を行いました。注入終了後、3日、1週間、1か月、3か月、6か月後に解剖し、吸入暴露試験と同様にBALFの細胞解析等を行いました。吸入暴露試験では、酸化セリウムは高濃度、低濃度ともBALFの好中球の増加を認めました。気管内注入試験でも、好中球数の持続的な増加を認めました(表②(a)-3)。

さらに、新たな工業ナノ材料の吸入暴露試験と気管内投与試験を実施しています。上記のナノ材料の吸入暴露試験と気管内投与試験の結果の類似性と相違性を検討し、初期有害性情報取得の目的で気管内投与試験を用いるに当たってのデータ解釈上の留意点をまとめる予定です。

 

表②(a)-1 酸化ニッケルナノ粒子と二酸化チタンナノ粒子の気管内投与試験と吸入暴露試験の結果のまとめ
r-02a-1

表②(a)-2 二酸化チタンナノ粒子(P90)の気管内投与試験
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表②(a)-3 酸化セリウムナノ粒子の気管内投与試験と吸入暴露試験の結果のまとめ
r-02a-3

 

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